BCG Matrix(Boston Consulting Group Matrix)
事業や取扱製品を比較するための切り口
2つの切り口:Market growth rate (マーケットの成長率),Relative market share (マーケット・シェア)
4分類:Star(花形),Question marks(問題児),Dog(負け犬),Cash Cow(金のなる木)
Star(花形):高成長市場・高シェア
成長するマーケットで、シェアを持っている花形事業は、大きな売上を上げることができます。
同時に成長し続けるマーケットで熾烈なシェア争いを展開してゆくために必要となる費用(新規設備投資など)は膨大なものになるので、お金の持ち出しも多くなります。
マーケットが成熟し成長が止まれば、花形は新規設備投資の悪夢から開放され、金のなる木に変化します。
人事的には将来のマネジメント候補となるような優秀な若手を配置しつつ、マネージャーには既存顧客の維持に決して失敗しないような、業務に熟練した人材が配置されたりします。
Question marks(問題児):高成長市場・低シェア
成長するマーケットで、まだ大きなシェアを獲得できていない問題児の事業は、設備投資などでお金がかさむ一方、シェアが無いので売上は小さく、まず赤字になります。
うまくシェアを獲得できれば花形事業になり得ますが、それに失敗すると事業撤退となります。
大企業における新規事業やベンチャーの多くは、この状態からスタートすることになります。
読みにくいマーケットの変化を的確に捉えつつ新規顧客を獲得して行くためには、強力なリーダーシップを発揮できる人材が必要になるでしょう。
過去の成功体験に縛られないような若手がリーダーとして抜擢されるのも、こうした問題児の事業であることが多いように思います。
また、失敗を恐れるような環境を作ってはならないため、減点法の人材評価が全く馴染まない事業でもあります。
Dog(負け犬):低成長市場・低シェア
成長が止まっているマーケットでマーケット・シェアも獲得できていない事業は、赤字かそれに近い状態になります。
競合他社の事業を買取ることでシェアを上げるか、もしくは事業を売却することを検討します。最悪は撤退という決断もあるでしょう。
人事的には、こうした苦しい事業に配属されている人材を別の事業に転属させたり、人材が会社を辞めてしまったりしないようなメンタル面でのケアをして行くことが求められます。
Cash Cow(金のなる木):低成長市場・高シェア
成長が止まっているマーケットでマーケット・シェアが高いと、新規設備投資費用などがかからないにもかかわらず売上高は高くなり、莫大なキャッシュが生み出されます。
この事業で稼いだキャッシュを、花形や問題児の事業に投資として振り分けるのが理屈ですが、金のなる木で仕事をしている人々には「俺たちが稼いでいるんだ」という会社の主流意識がある場合も多く、政治的には最も扱いが難しい事業です。
人材としても物事をそつなくこなせるようなトゲの少ない人材が求められるのですが、とにかく政治力が強いため、優秀な人材をたくさん抱え込んで、それらを飼い殺しにしてしまうようなケースも少なくないと想像します。
新しく付け加えるような仕事は少ないので、人事評価は減点法になりがちです。
このモデルは、成功した事業のライフ・サイクルを示していると見ることもできます。
「問題児」として産声を上げた事業は、成功して「花形」になり、マーケットが成熟することで「金のなる木」としてその役割を新たにし、出来る限り長くキャッシュを生み出しつつ、いずれは「負け犬」化して、事業が売却される形での撤退といった具合です。
このモデルからは、これら4つのグループのうち「花形」「問題児」「金のなる木」の3つの事業をバランス良く持っている企業が理想とされるでしょう。理屈では、
金のなる木で生み出された現金を、金食い虫である花形と問題児につぎ込むという流れが望まれます。
ところでこのようにBCGマトリクスは、製品や事業のポートフォリオを瞬時に理解するために大変役立つものではありますが、このモデルにもいくつか重大な弱点があることも知られています。
まず、事業間のシナジーが全く考慮されていません。各事業で設備やターゲット顧客が共有されていれば、たとえある事業がBCGモデルで「負け犬」となっていても、それは事業の実態を表してはいないかもしれません。
事業間でブランドが共有されていれば、儲からなくても撤退せずに、宣伝として続けたほうが良い事業もあるでしょう。
また優秀な人材を事業間異動させるジョブ・ローテーションの効果は、普通は測定することが難しいものです。
「負け犬」事業には長い歴史があることもあり、そんな事業にも社内では自社の文化を全社に浸透させるための「学校」としての意味があるかもしれません。
次に、このモデルはあくまで2つの切り口、成長性とシェアから出来ており、自社独自の特許化されたテクノロジーなどによるニッチ独占やライセンス収入などの複雑なビジネス要因が分析から漏れるという弱点があります。
また、BCGマトリクスはあくまで収益にフォーカスしたモデルですが、事業の存在価値は、例えば社会貢献の度合いや地域社会との関係性など、収益だけで測れるものばかりではないと考えられます。
さらに定義上の問題も無視できません。特にマーケット・シェアというのは、マーケットをどのように定義するかに大きく依存します。
仮に鉛筆市場でナンバー・ワンとなっていたとしても、筆記用具市場としてマーケットを定義しなおせば、シャープペンシルやその他のペンなども含まれることで、シェアは極端に小さなものになるかもしれません。
そしてこのモデルに内包されている「シェアが上がれば収益も上がる」「成長市場ではお金の持ち出しが多くなる」「成熟市場では設備投資費用が必要ない」といった前提が成り立たないようなビジネスでは、BCGマトリクスは使用することが出来ないという点は、強調しておく必要があるでしょう。
こうした弱点を別の分析などによって補いつつ使用する限りにおいては、このBCGマトリクスは、開発から20年以上が経った現在でも大変有用なツールであると思われます。
引用元
http://nedwlt.exblog.jp/5921401/